分数が出てこない行列の対角化問題の作問の手法
本記事の目的
次のような形の問題は,「行列の対角化問題」と呼ばれる問題である.本記事では,これを単に「対角化問題」と呼ぶ.
行列に対し,次のような条件を満たす対角行列と行列の組を1つ求めよ.
対角化問題は,行列やベクトルに関する他の問題 (行列の累乗をの式として表す問題など) の解法の一部として重要な問題である.
また,問題設定によっては行列の逆行列を計算する必要もあり,机上で解く場合には分数の取り扱いが面倒な問題としても知られている.行列の成分に計算量を減らす特別な配慮がなければ,計算は大変厄介なものとなるだろう.また,あまりにも煩雑な計算を含む対角化問題は解答者の対角化の技能を確かめるのには不適切な場合もある.
そこで,本記事では対角化問題における行列のすべての成分が整数となるように設定する作問の手法について記述する.
方法
次正方行列の対角化問題を考える.
次単位行列に好きな回数の行基本変形を行い,を設定する.ただし,行基本変形のうち,「ある行を倍する」変形については,に限る.また,「第行に第行の倍を加える」変形については,は整数の形に限る.
このようにしてできたの各成分は整数である.また,は存在し,その各成分もまた整数となる.
の第列を列ベクトルとして,
と表す.はの番目の固有ベクトルである.に対応する固有値を設定する.は整数であればどのように設定してもよい.を整数とすることで,の各成分は整数となる.
とする.すべての固有値,固有ベクトルの各成分,行列の各成分が整数だから,の各成分もまた整数となる.
こうして,行列のすべての成分が整数となるような対角化問題の作問ができた.